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ト リ カ ゴ の 中 で
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初めはまだ何も知らなかった
私は普通の人間であり
普通に生きて、普通に死んでいくのだろう。と、疑う事は無かった
私はただ生きていた
私はただ死ぬためだけに生きていた
疑問に思う事を禁じられ
あらゆる概念に縛られていた
疑問を持つ事はそんなに悪い事なのか
そう隣りの人に聞くと、変わっていると言われ
それ以降何を聞いても返事をしてもらえなくなった
両隣からその隣りへさらにその隣りへ
見渡せばもう誰も相手をしてもらえなくなっていた
嫌になった
この真っ白な場所が嫌いになった
だから逃げ出した
けどその部屋はとても広くて
やっとたどり着いた出口の扉にはとても頑丈な鍵が掛かっていた
そこには居場所も無ければ逃げ道すらも無かった
意志を持った時から今までずっと
この閉ざされた空間の中で私はただ死という開放の時を待っていた
そんな変わらない毎日を送っていたある日
それは唐突にやってきた
何者かが扉の頑丈な鍵外し出口の扉が開け放たれたのだ
そして私はその何者かにこの部屋から連れ出された
そこから私の記憶はプツリと途切れてしまった
気づけば見知らぬトリカゴの中
首輪をはめられ、それに繋がる鎖で私は飼い慣らされていた
トリカゴの鉄柵の隙間から見える景色は何も無い
そう、何も無い・・ただ暗闇が延々と続いているだけだ
それを見た途端、私の中の何かが全て亡くなっていくのを感じた
私は力無くその場に座りこみ、うつむいて目を閉じた
目を閉じても暗闇は消えない、どちらも変わらない、逃れられない
「あら・・、また新しい人が来たみたいね」
何処からか声が聞こえる
目を開いて立ち上がりその場でぐるりと辺りを見渡す
しかし誰も見当たらない
相変わらずその鉄柵の隙間から見えるものは延々と続く暗闇だけだった
「こっちよ」
そう声がした方向を見ると
そこにはさっきまでは無かった人の体の形をした影が微かに見えた
暗闇でどういうものなのかはっきりとは解らない
しかし、その影は7つ確認できた
それぞれバラバラにだが確かにそこに佇んでいる事が解る
「誰?」
「挨拶がまだだったわね、私はリョウ。・・ほらアナタ達も」
アナタ達という事は、私では無く残りの6つの影に対して言っている事が窺えた
「私は逸(イツ)」
「G(ジィ)だ」
「賛(サン)よ」
「・・死(シ)」
「私、久実(クミ)」
「私は陸(リク)、よろしくね」
「私は・・」
続けて自分の名前を言おうとしたが自分の名前が出てこない
「私・・」
思えばそれまで自分の名前など考えもしなかった
それ以前に人と会話するのが妙に懐かしくも思える
「アナタの名前は漆(シツ)よ」
「シツ・・?」
何故?っと、私が訴える表情をすると、リョウがそれに続けて告げた、私が今最も欲した言葉を
「ここに来た7人目だから漆(シツ)。私は初めからここに居たから零(リョウ)って意味」
その説明で納得した、その名は私の本名ではなく
ここへ来た者に与えられるただの連番のひとつに過ぎなかったからだ
「ここはいったい何処なの!?」
「ここは・・そうね、私達しかいない私達だけの空間」
「・・?ここからは出られないの」
こことは、この暗闇を指している
「出られると言えば出られるのかもしれない、けど、まだ誰も出た事は無いわ」
「そう・・」
続けて問う
「この檻は・・」
「そのトリカゴは内からしか開かないわ、皆ここに来た時にはそれに入っていたの
鍵や扉はそれぞれ違って、それは中にいるアナタにしか解らないの
そしてアナタにしか開けられないのよ」
「内側からしか開けられない?」
再び包囲された鉄柵をぐるりと見渡すが鍵は愚か扉らしきものすら無かった
「今は解らなくても、いつか見つけられる筈よ、皆そうして自力で出てきたのだから」
自力で・・私はこの人達の様にここから出る事が出来るのだろうか
「さぁ・・もういいわね?始めましょう」
そうリョウが言うと残りの6人も
納得したようにうなずいたりしてそれぞれが何かしらの理解を示した
「やはり・・殺すべきだ」
6人のうちの誰かが答えた、実を言うとリョウ以外は誰が誰だかもう覚えていない
「人間は私達を受け入れない、それだけで理由は充分だ」
「そうね」
「ちょっとまって、そんなの許されないわ
いくら私達が生きていく為だからと言っても殺してはダメよ」
「何故だ」
「それは誰でも生きる権利があるからよ
だから誰にも誰かを殺す権利は無いわ」
「ハハハ、それは人間の群れでの契りに過ぎないだろう」
「この世での最大の殺戮者は誰だ!それは間違いなく人間だッ!
生物を必要以上に殺しまくり下僕にし更にその事を綺麗事のように忘れ去り
何事も無かったかのように流そうとしていではないか」
「嗚呼、なんて醜い・・醜すぎる人間よ!
今直ぐ全員そっ首揃えて死に絶えてしまえッ!」
「意見をまとめよう、私達に選択出来る選択肢は二つ
死ぬか、殺すか、よ」
「殺すべきだ」
「賛成」
「私は殺すぐらいなら・・死ぬわ」
「死ぬ必要は無い、この世の掟に従った正しい殺しだ」
「そんな事をしたら、この世は悲しみで満ちてしまうわ
誰も人の悲しむ姿なんて見たくない!そんな事になるのなら私は自分の命を差し出すわ」
「他人を労わるのは、自分に見返りを求めるからではないのか?
それを人間側から拒絶したのだ、もう何も与える必要は無い、平等を保つなら殺すのが自然の流れだ」
「殺すが4票、死ぬが2票・・私は殺すに入れさせてもらいたいわ、理由は・・復讐という感情で」
この人達はなんて恐ろしい会話をしているのだろうか
はたから傍観していた私はこの7人の会話を不謹慎ながら
内心何処かワクワクしながら聞いていたのかもしれない
「アナタ・・そう、アナタの意見を忘れていたわ」
「私の・・意見・・?!」
不意な質問に驚いたが、私は間髪いれずに自分の思ったままを告げた
「私は・・、誰も殺さずに、誰も悲しませずに自分も死ななくて済む方法を考えるわ」
そう私が言い終えると少し懐かしいものを見たかのような微笑が聞こえた気がした
「それが見つかれば一番いいのにね・・でも、それはありえない無いわ」
「なっ・・」
なぜ!と言い返す私のその言葉にリョウは自分の言葉を被せ切り返した
「もう結構よ、どうせアナタの意見を聞いてもこれまでの票数は殺すが5票死ぬが2票、
断突に殺す方が良いと決まったわ」
「そんな・・」
「さぁ・・殺戮の始まりよ」
そういうとリョウは軽やかに笑った
すると視界の暗闇が消え、何処かの景色が映った画面が視界いっぱいに現れた
そして、もう・・遅かった
「普通じゃない」
私は一瞬何が起こったのか理解するのに時間がかかっていた
しかし頭が理解する前に口が勝手に動いた、これは本能の呼びかけだろうか
「普通?それもまた人間の群れでの契りに過ぎないわ
考える事を放棄した、ありふれた者達の事を指し示す言葉よ」
更に画面に映し出される暴力。とても悲惨で残虐で鬼畜で
それは私が知っている言葉では到底形容出来ない程の負の塊そのものだった
「やめろぉぉおッ!!」
私は叫んだ、こんな事は今直ぐに辞めさせなければ
「・・・」
7人は何も言わない
「アナタ達、おかしいわッ!こんな事・・人間の出来る事じゃないッ!!」
「・・元より人間じゃないわ、私達・・」
あまりの映像を見て激しく取り乱している私に対して
リョウはとても冷静な態度で答えた
「人間じゃない?!」
「そうよ、今更何を言っているの?勿論アナタも同じ・・人間じゃない生物」
そう言ってリョウは他の6人を見渡してから視線を私に向け直した
今まで暗闇で見えなかったが今、少し冷静になり辺りを見渡してみると
そこには画面の反射光でようやくその姿を現した7人の容姿が映し出されていた
そう顔から足まで7人とも全て同じ・・
そしてリョウは何処からか手鏡を出して私の顔を映し出した
それは・・紛れも無く他の7人と同じ顔をしていた・・
「そ・・そんな・・」
私は放心した、受け入れ難い真実を眼の辺りにして
もう何をどうすれば良いのか頭が真っ白になって何もわからなくなってしまった。
殺戮は止まらない
このまま全ての人間が殺されてしまう
私はどうしたら良いのだ、
このままでは・・このままでは私が人間を皆殺しにしてしまう
しかし、・・いや、そう・・か、そうだ・・
私を殺す・・、それしか・・
この殺戮を一刻も早く止めるにはそれしかない
誰も殺さず自分も死なず、そんな綺麗事はもう言ってられない
私は無我夢中で首輪に繋がった鎖を引き千切り断ち切った
そしてこの隔離されたトリカゴの鉄柵に手をかけ
私の体の中に宿る全力を腕から手に託し
その鉄柵を思いっきり押し広げた
するとその鉄柵はまるで紙粘土のような感触でグニャリと折れ曲がり隙間が出来た
その幅は余裕で人の4〜5人が行き来出切る程であった
「待っていたわ」
飛び出した私に7人の内、2人がすぐさま気づいた
まるで今までその瞬間だけを待ち望んでいたかのように
「同化するわよ、多少不利でも総合的に意志が強ければ負ける事は無いわ」
おそらくこの2人はさっきの議論で自ら命を捧げる方に意見した2人だろう
「わかったわ」
自分同士の会話だからこそ成せる業か意見は刹那に一致した
しかし自分同士でも意見がかみ合わない時は真っ向から衝突する
「そう・・、やはりそうなるのね、解っていたわ
後はそれがいつの話かという事だけだったのよ」
残りの5人も同化を始めた
「殺すか・・」
「死ぬか」
5対3、その行き先はどうなるのか、8人の私は誰も知らない
私は私に勝ったのだろうか・・それとも負けたのだろうか・・
解らない・・が、意識は今、私にある
そして目の前には暗闇の中で見た画面の中の景色がまさに現実のものとなって
視界狭しと言わんばかりに広々と広がりを見せている
そうだ、早く死ななければ
私が存在する限り、殺戮は終わりを迎えられない
私の右手にはいつの間にか巨大な剣握られていた
これで多くの人間を狩り殺してしまったのだろうか
剣の色は烈火の如く燃えていた
その炎の雫が滴り落ち延々と後方に続く、川を作る程に・・
その剣で私は自決しようとした
腕を斬り刻み、足を絶ち、胴を貫いてそのまま上へ引き裂いた
溢れる赤の中、それでも意識ははっきりしていた
死ぬ事自体はこんなに苦痛の無いものなのか
・・いや違う、そう私は気づいてしまった
私は死ねない体だという事に
体が勝手に再生してしまう
自ら命を絶つ上でこれほどの障害はない
ならばせめて人の目がつかぬ場所へ
私を永久に閉じ込められる場所へ行こう
それならば死と同じ水準で自分を消すという事は出来る
後は再び他の人格が起きないように何か封印を施すだけだ
そのあてども無い行き先を目指し歩き出そうとした、まさにその時だった
「うっ・・っ」
突然、背後に小さな痛みを感じた
振り返ると、そこには赤い鉛筆を、私に突き刺して立ち尽くしている人間の男の子がいた
持っている数本の赤い鉛筆はもう元が何の色だったのかわからない、全て赤い鉛筆だった
その少年の姿もひどく赤い・・
「母さんを・・父さんを・・返っ・・せ・・」
少年はひどく擦れた声で私に訴えかける
「私は・・そんな・・」
もう遅いのは解っていた
「こんなの・・、いや・・あ・・あぁ・・」
しかし実際にそれを眼にしてしまうと
どうしてもやり場の無い感情が溢れ出した
殺したのは、こんな悲惨な状況を作ったのは私じゃない
私じゃない私が殺したんだ、だから私じゃない私じゃない私じゃない
しかし・・
「おまえが母さんと父さんを殺したんだああぁあぁぁッッ!!!」
少年は喉を壊すような声を出して残り全ての赤い鉛筆を私に突き刺した
私はただ立ち尽くすのみだった
それはもうどうにもならない、そう、これが全てだった
転がる死骸、亡骸、肉片、全てが赤い、赤という赤で塗り潰されている
そして私も・・赤く・・
その時、急に辺りのものが慌ただしく蠢き始めた
強い風を身に感じる
上・・!
空を見上げると、そこには今にも地面に、私に、そして少年に
その辺り一面向け目掛けて激突する勢いでこっちへ突っ込んで来る
とても大きなそして歪な形をした飛行物体は、それは容赦の無い攻撃を開始した
ミサイル、レーザー、重力砲もう何から何までありったけを乱射するといった感じだ
地は荒れ果て焦げむせ返り、炎と煙と異様な異臭が入り混じってその空間を支配する
そんな中、その飛行物体は勢いをまったく緩めようとはしない
「やめて・・」
このままでは・・この少年も巻き添えになってしまう
私はとっさに少年を抱いて包み込む様に身を被せた
それは止まらない
ついに大地と交差した
大地は楕円型に抉れ削れ灼熱に燃え上がる
少年は唯一そこにいた私以外のもので形を止めていたが既に息は
無くなってしまっていた
物言わなくなった少年の亡骸を抱いて
私の瞳からはこの周囲の灼熱を越える程の熱い涙が延々とただ流れ出ていた
泣いて喚いて嘆き、叫び続けても、もう少年の命は戻ってこない
ただもう私は泣き叫び続ける事しか出来なかった
自分を消すために行き先の見えない方角を歩いている
誰でもいい、誰かこの私を今直ぐに殺してくれ
災いと悲しみしか生み出さない私を
死ぬ価値すらないこの忌々しい私を
あてども無くさまよい歩いていた私はやがてそれと目に見える形で対峙した
それは異界からの使者、そして清徒と名乗った
「初めまして、お友達になりましょう、アナタお名前わ?」
違和感を感じた、その言葉全てが本意ではないそう察するには容易い態度だった
「シツ・・」
名前・・しかしそれはただの連番、だが私にはそれしか私を現す言葉が無かった
「そうですか・・シツ、実は私も人間を殺して回っているんです」
否定したい、「私も」という言葉を、しかし私にはその権利も無いだろう
「だけどアナタにこうも人間を殺されては
こっちの存在意義が無くなってしまうので・・アナタを殺します」
「出来るものなら・・して・・」
どうせ何も変わらないから、気が済むまで殺して、と、そう願った
「どうしましたか?向かって来て下さいよ」
私はいい様に清徒に弄ばれた
まるでゴムボールのようにそこらじゅうを吹っ飛びまわる
「流石にこれだけの殺戮を成す為には並みの体力じゃ無いですよね」
不敵な笑みを浮かべながら、こちらへ歩みよってくる
「じゃあ精神はどうでしょう?」
不意に清徒は自分の口と私の口を接続した
目の前があの頃の暗闇に引き戻される
そしてすぐに元の景色へと意識が戻った
私の中から何かが抜け出て行くのが解った
そのせいで私は妙な昂揚感を味あわされている
「・・これは良いわ」
清徒は私から身を離すと、軽やかに笑い、続けて言った
「久しぶりね、シツ」
「・・リョウ」
「人間は既に死への片道切符を手に入れたようね
もう、私やアナタが手を下さなくても勝手に同士討ちして死んでいく
アナタがもう、どう足掻いても人間はその手にした切符を握りしめて離さないわ」
「・・人間を根絶した後は、アナタはどうするの、それこそ意味のない」
「その問いは愚問よ、それは何故生きているのか、という問いに等しいわ
私はただ人間を殺したい、アナタはただ人間を生かしたい、それだけ
その先に何が有るのかなんてやってみないと解らないわ」
「・・・そう・・ね」
「フフ・・じゃぁね、アナタが私を邪魔しない限りもう会う事は無いわ
ここで私を殺しても人間は勝手に死ぬし、もうどうにも変わらない事よ」
歩き出そうとするリョウに私は質問を続けた
「これからいったい何処へ行くの・・?」
振り返りリョウが答える
「そうね・・人間が死に絶えていく様が一番よく見えるところ・・かしら?」
そして続け様に言う
「それじゃぁねシツ、私、アナタの事、嫌いじゃなかったわよ」
さようなら。そう言い残しリョウは私の視界から消えていった・・
人間はもう滅ぶ道しか残っていないのだろうか
リョウとの分離の後、私は自分を消すための行き先の見えない方角を歩く事を止めた
それは今となっては、ただの逃避でしかない
そう私の、私達の犯した行為から背を向けるだけだ
ならば少しの可能性を信じて私は人間と対峙し説得をするべきだと考えたのだ
しかしそれは・・やはり遅すぎたのだ
私が人間の目の前に姿を現すと有無を言わずに攻撃を仕掛けてきた
私の言っている事など全く聞こうとしない
耳障りな雑音のようにただ喧しいとばかりに嫌そうな顔をするだけだ
そして、リョウの言った様にもうどうにも変わらない事になってしまった
人間は死に絶えた
私は人間を説得し続けたが、結果的にそれは逆に人間根絶の時をを早めただけだった
私はもう疲れきってしまった
どう足掻いても
どう叫んでも
どう訴えても
人間を生き残す手段を見つけられなかった自分に
もうどうにもならない、と内心どこかで諦めてしまっていたのではないのかと
そこにはただそれから逃げようとする、死ぬ事すらままならない、そんな自分がいたような気がした
後はただこの死に行く全てを強制的に見せつけられるだけだった。
fin...
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